建設業界への転職やキャリアアップを考える際、「建設業許可」についてどのくらい考慮しているでしょうか。
「独立・開業する人が気にするもの」と思われがちですが、実はそこで働く従業員や求職者にとっても重要な意味を持ちます。
なぜなら、建設業許可の有無やその種類は、その企業の経営規模、受注できる工事の大きさ、そして「社会保険に加入しているか」といった法令遵守の姿勢まで、多くの情報を示しているからです。
この記事では、建設業許可の基本的な知識から、許可要件が示す企業の信頼性、そしてそれが安定したキャリアや「新3K(給料・休暇・希望)」とどう結びつくのかを、キャリアと労務の視点から解説します。
- 建設業許可の基本的な仕組みと、求職者も知っておくべき理由
- 許可の種類(一般/特定)が示す、企業の規模や安定性
- 許可要件と社会保険加入の深い関係性=「優良企業の見極め方」
1.建設業許可とは? なぜ求職者も知っておくべきなのか

建設業許可は、建設業を営む上で法律(建設業法)に基づき必要とされる許可のことです。
この許可があるということは、国や都道府県から「一定の基準を満たした信頼できる業者である」というお墨付きを得ている証拠となります。
建設業許可制度の基本
建設業を営むためには、原則としてこの「建設業許可」を受けなければなりません。
これは、建設工事が公共の安全や人々の生活に大きな影響を与えるため、質の悪い工事を防ぎ、発注者を守るために設けられている制度です。
「軽微な建設工事」以外は許可が必要
ただし、すべての工事に許可が必要なわけではありません。
法律では「軽微な建設工事」については、許可がなくても請け負うことが認められています。
軽微な建設工事とは、具体的には以下のいずれかに該当するものです。
- 建築一式工事の場合:工事1件の請負代金が1,500万円未満(税込)の工事、または延べ面積が150平方メートル未満の木造住宅工事
- それ以外の工事の場合:工事1件の請負代金が500万円未満(税込)の工事
逆を言えば、これを超える規模の工事を1件でも請け負う場合は、必ず建設業許可が必要になります。
なぜ重要? 許可が「企業の信頼性」を示す理由

求職者にとって重要なのは、ここからです。
「500万円以上の工事を受注できるか」は、企業の経営安定性に直結します。許可を持っている企業は、それだけ大きな仕事を受注できる体力と実績があると判断できます。
さらに、後述する許可の取得要件には、財産的な基準や社会保険の加入も含まれています。
つまり、「許可を適正に維持している企業」=「法令を遵守し、安定した経営基盤を持つ企業」である可能性が高い、と判断できるのです。
2.「一般」と「特定」で何が違う? 許可の種類が示す企業規模と安定性

建設業許可は、さらにいくつかの種類に分かれます。
特に重要なのが「営業所の場所」による区分と、「下請契約の規模」による区分です。
違い1:営業所の場所(大臣許可と知事許可)
これは、営業所(本店や支店など)をどこに置いているかによる違いです。
- 国土交通大臣許可: 2つ以上の都道府県に営業所を設置する場合
- 都道府県知事許可: 1つの都道府県内にのみ営業所を設置する場合
複数の都道府県で事業を展開している(大臣許可)からといって、必ずしも企業規模が大きいとは限りませんが、広域で事業を行う体力がある目安にはなります。
違い2:下請契約の規模(一般建設業と特定建設業)
下請契約の規模は、企業の規模や安定性を見る上で重要な区分です。
- 一般建設業: 上記の「軽微な工事」を超える工事を請け負うために必要な、基本的な許可
- 特定建設業: 発注者から直接請け負った(元請)1件の工事について、合計5,000万円以上(建築一式工事の場合は8,000万円以上)を下請契約に出す場合に必要となる許可
キャリア視点:「特定建設業許可」が意味するもの
「特定建設業許可」を持っている企業は、ゼネコン(総合建設業者)など、大規模なプロジェクトの元請となる企業です。
このような企業は、大規模な工事を安定的に受注する能力があり、経営基盤も強固であると推測されます。
実際、「特定建設業」の許可要件は、「一般建設業」に比べて財産的基礎(資本金など)の面で格段に厳しく設定されています。

働く従業員にとっては、大規模プロジェクトに携わる機会や、充実した福利厚生、安定した雇用環境が期待できるでしょう。
もちろん「一般」の許可業者が優れていないという意味ではなく、専門分野で高い技術力を持つ企業も多数存在します。
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3.建設業許可が必要な「29業種」とは?

建設業許可は、工事の種類ごとに「29の業種」に分かれています。
例えば、「大工工事業」「とび・土工工事業」「電気工事業」「管工事業」など、専門分野が細かく規定されています。
業種一覧とキャリアの専門性
大きく分けると、2つの「一式工事」(土木一式、建築一式)と、27の「専門工事」があります。
企業がどの業種の許可を持っているかを見ることで、その企業の得意分野や専門性がわかります。
これは、求職者が自身のスキルや目指すキャリアと、企業の事業内容が合致しているかを確認するための重要な情報となります。
4.優良企業を見極める「5つの許可要件」
優良企業を見極める5つの許可要件
管理能力
の配置
基礎
該当しないこと
建設業許可は、誰でも簡単に取得できるものではありません。
法律で定められた以下の「5つの厳しい要件」をすべてクリアし、それを維持し続ける必要があります。
1. 経営業務の管理能力
許可を受けようとする業種で、「一定期間(5年以上)の経営経験がある役員などがいる」ことが求められます。
企業のトップに、建設業経営のノウハウが求められるということです。
2. 専任技術者の配置
許可を受けたい業種に関して、定められた国家資格(例:1級施工管理技士など)を持っているか、または一定期間(10年以上など)の実務経験を持つ技術者を、営業所ごとに配置する必要があります。
これは、工事の品質を担保するための重要な要件です。
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3. 誠実性
法人の役員などが、法律に違反したり、不正な行為をしたりする恐れがないことが求められます。
4. 財産的基礎
工事を途中で投げ出したりしないよう、安定した財産を持っていることが求められます。
特に「特定建設業」の場合は、より厳しい財産要件(資本金2,000万円以上など)が課されます。
5. 欠格要件に該当しないこと
過去に法律違反などで許可を取り消されたり、役員が禁錮以上の刑に処せられたりしていないことなどが求められます。
参考|国土交通省:許可の要件
5.【労務の視点】許可要件と「社会保険の加入」の深い関係

労務管理およびキャリア形成の観点から、注目すべきは「社会保険への加入」です。
許可取得と社会保険加入の義務化
以前は、社会保険への未加入業者も多く存在しました。
しかし、建設業界の働き方改革の一環で、現在では建設業許可の取得・更新の要件として、健康保険・厚生年金保険・雇用保険への適切な加入が実質的に義務化されています。

国や都道府県は、許可申請時や更新時に、社会保険の加入状況を厳しくチェックします。
もし未加入であれば、許可が下りない、または更新できないという厳しい措置が取られるのです。
許可の有無が「働きやすさ」につながる理由
「建設業許可を適正に取得・維持している」企業は、「従業員を社会保険に加入させる」という企業として当然の法的義務を果たしていることになります。

これは、働く側にとって最低限のセーフティネットが保証されていることを意味します。
建設業許可の有無は、給与や休暇といった条件以前に、その企業が法律を守る「当たり前の会社」かどうかを見極める、分かりやすい指標となるのです。
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6.許可取得と更新の流れ

許可は一度取得すれば終わりではありません。
申請から取得までのステップ
許可申請には、上記5つの要件を証明するための膨大な書類(経営経験の証明、技術者の資格証や実務経験の証明、財産状況の確認資料など)を準備し、各都道府県や地方整備局の窓口に提出します。
審査には通常1〜3ヶ月程度かかります。
5年ごとの更新と「建設キャリアアップシステム(CCUS)」
建設業許可の有効期間は5年間です。
事業を継続するには、5年ごとに更新手続きが必要となります。この更新時にも、社会保険の加入状況を含め、許可要件を維持できているかが再度厳しく審査されます。

近年は、技能者の資格や就業履歴を登録する「建設キャリアアップシステム(CCUS)」の活用も進んでおり、業界全体として透明性を高める動きが加速しています。
参考|
国土交通省:登録の有効期間と更新申請の期限
一般財団法人建設業振興基金:建設キャリアアップシステム
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7.建設業許可は、未来のキャリアを守る「道しるべ」
建設業許可は、単なる法的な手続きではありません。それは、企業の「信頼性」「安定性」「法令遵守の姿勢」を客観的に示す証明書です。
- 「特定建設業許可」を持っているか
- 「社会保険」に加入しているか
これらの情報を知っておくことは、建設業界で長期的に安定したキャリアを築き、安心して働ける「優良企業」を見極めるための、「確かな道しるべ」となります。
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