施工管理への転職を検討する際、求人情報の「土日休み」や「残業少なめ」といった記載と、実態との乖離に不安を抱く求職者は少なくありません。
残念ながら、建設業界の求人には「理想と現実のギャップ」が存在します。しかし、これは決して絶望的な話ではありません。
この記事では、なぜ求人情報が「嘘」と言われるのか、その背景を、建設業界の構造や関連法規の観点から解説します。
- 施工管理の求人が「嘘」と言われる理由と、その背景にある業界特有の事情
- 誇大広告や嘘の情報を掲載する求人を見抜くための具体的なチェックリスト
- 転職エージェントや口コミサイトを活用した、信頼できる企業の見つけ方
1.施工管理の求人情報が「嘘」と言われるのはなぜ?

施工管理の求人が「嘘」と言われるのは、企業が意図的に虚偽情報を載せる場合と、業界特有の事情から生じる「理想と現実のギャップ」が原因です。このギャップを理解することが、失敗しない転職の第一歩となります。
本当に「嘘」なのか?求人情報と実態のギャップ
求人広告に書かれていることが、入社後に全く違うと感じられるケースは少なくありません。
これは、企業側が意図的に虚偽の情報を記載している場合もありますが、業界の慣習や構造的な問題が原因であることも多いのです。
求人票と実態の乖離は、単なる「嘘」というモラルの問題に留まらず、法的にも「職業安定法(虚偽求人の禁止)」や「景品表示法(優良誤認表示)」に抵触する可能性がある重大な問題です。
「土日休み」「残業少なめ」が実現しにくい業界の事情

国土交通省が参照する厚生労働省「毎月勤労統計調査」によれば、2023年の建設業の月間総実労働時間は163.7時間で、調査産業全体の平均136.1時間を大幅に上回っており、これが「求人票通りに休めない」というギャップに繋がっています。
日本建設業連合会のデータによれば、建設業の労働時間は全産業平均と比較して「年間約230時間」も長いという実態があります。
また、国土交通省の調査では、「4週8休(完全週休2日)」を達成できている技術者は、わずか11.7%に過ぎません。
参考:
国土交通省|建設業及び建設工事従事者の現状・建設業(技術者制度)をとりまく現状
Office-Mizuki|建設業における労働時間の現状と2024年問題:時短アンケート結果から
一般社団法人 日本建設業連合会|産業別就業者数
なぜ企業は実態と異なる求人を出すのか?
企業が実態と異なる求人情報を出す背景には、主に以下の理由が挙げられます。
①応募者を集めたいという目的
多くの求職者が求める「土日休み」や「残業少なめ」といった条件を提示することで、他社との差別化を図り、応募者の母数を増やそうとします。
②経営層や採用担当者が現場の実態を正確に把握していない
上記の理由により、乖離した求人情報を作成してしまうケースも存在します。
2.施工管理の求人によくある具体的な「嘘」とは?

施工管理の求人広告でよく見かける、注意すべき「嘘」や誇張表現について具体的に見ていきましょう。
「年間休日120日以上」
施工管理は、工期が迫ると休日出勤や長時間労働が発生しやすいため、求人票の休日数を鵜呑みにせず、面接等で実態を確認することが重要です。
企業によっては、現場の繁忙期に合わせて休日数が大きく変動することがあります。

面接時に「年間休日120日以上とありますが、実際にはどのくらい取得できますか?」と具体的に質問しましょう。
「残業少なめ(月20時間以内)」
残業時間も求人広告と実態が乖離しやすい項目です。多くの企業が「みなし残業代」を給与に含めており、実際に残業した時間と給与が見合わないケースも少なくありません。
みなし残業(固定残業代)制度自体は違法ではありませんが、求人票には「固定残業代の金額」「その金額に含まれる時間数」「超過分の支払い」を明記することが義務付けられています。これらが曖昧な求人はリスクが高いと言えます。
みなし残業時間の有無や、それを超えた場合の残業代の支払いについて、必ず確認することが重要です。
参考:マイナビ転職|みなし残業とは?導入している会社で働くメリット|超過分は請求できる?
「未経験者歓迎」
未経験者歓迎の求人の中には、研修制度や教育体制が整っていない企業も存在します。入社後すぐに現場を任され、右も左もわからないまま放置されてしまうといった事態に陥る可能性もあります。
応募を検討する際は、研修期間や具体的な教育内容について質問し、企業の教育体制がしっかりしているかを確認しましょう。
3.求人情報の「嘘」を見抜くためのチェックリスト
🚨 求人情報の「嘘」を見抜く4つの検証ポイント
💲 相場との乖離を測定する
🔍 継続的に募集されていないか確認する
📜 募集要項の曖昧度を評価する
💭 面接で企業情報を具体的に質問する
求人広告に隠された「嘘」を見抜くには、具体的なチェックポイントを知ることが重要です。転職活動中に必ず確認すべき、給与、募集期間、仕事内容、そして面接での質問ポイントを解説します。
チェックリスト1|給与・待遇が相場より不自然に高い
「月給50万円以上」「年収1000万円も可能」といった魅力的な文言には注意が必要です。相場を大きく上回る給与は、その分だけ極端な残業や休日出勤が常態化している可能性を示唆しています。
チェックリスト2|年間を通して募集を続けている
特定の職種やポジションの求人が、年間を通じて掲載されている場合は警戒が必要です。これは、入社してもすぐに辞めてしまう人が多い、定着率が低いことを示している可能性があります。
また、事業拡大による募集であっても、社員が働きにくい環境であるために、常に人材を補充しているケースも考えられます。
チェックリスト3|仕事内容や募集要項が曖昧
「現場管理」「プロジェクト推進」といった抽象的な言葉だけでなく、具体的な担当業務、担当する工事の種類や規模、過去の実績などが明記されているかをチェックしましょう。
詳細な情報が書かれていない求人は、都合の悪い情報を隠している場合があります。
チェックリスト4|面接での具体的な質問
面接は、企業の実態を知る絶好の機会です。以下の質問をすることで、求人情報だけでは分からない情報を引き出しましょう。
- 「入社後の1日のスケジュールや業務内容について、具体的に教えていただけますか?」
- 「配属予定の現場はどのような規模ですか?」
- 「休日出勤や時間外労働は月に平均どのくらいありますか?また、その際の残業代はどのように計算されますか?」
- 「有給休暇の平均取得日数はどのくらいですか?」
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求人の嘘を見抜くチェックリストを活用したら、次は信頼できる転職エージェントの力を借りましょう。特化型と総合型の使い分けで、年収アップと働き方改善を実現できます。
4.もし「嘘」や「相違」に直面したら? 法的根拠に基づく対処法と相談窓口
求人情報の段階で見抜けず、選考が進んでから、あるいは内定後に条件の不一致に気づくケースもあります。
そのような場合に備え、法的に正しい対処法と、適切な相談窓口を知っておくことは、自身を守るための重要な防衛策となります。
内定後の最終防衛ライン:「労働条件通知書」の徹底確認
面接を通過し、内定が出たタイミングで企業から交付される「労働条件通知書(または雇用契約書)」は、最も重要な書類です。
求人票や採用面接での説明はあくまで「募集条件」ですが、労働条件通知書に記載された内容は、法的な拘束力を持つ「契約内容」となります。
労働基準法第15条では、労働契約の締結に際し、使用者は労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定められています。
【確認すべきアクション】
労働条件通知書を受け取ったら、求人票や面接時のメモと照らし合わせ、以下の項目に相違がないか、一字一句確認を行います。
- 基本給と手当の内訳
「月給〇万円」の中に、説明になかった「みなし残業代」が含まれていないか。 - 就業時間と休日
「週休2日」の定義や、年間休日数が求人票と一致しているか。 - 業務内容と就業場所
希望した職種や勤務地と異なる記載がないか。
もし明示された労働条件が事実と異なる場合、労働者は即時に労働契約を解除(内定辞退・退職)することが法律上認められています(労働基準法第15条第2項)。
相違が見つかった場合は、署名・捺印をする前に人事担当者に問い合わせ、修正または納得のいく説明を求める必要があります。
求人情報の虚偽記載に関する相談・通報窓口
明らかに悪質な虚偽の求人や、入社後に重大な条件相違が発覚した場合は、泣き寝入りせず、公的な相談窓口へ情報を寄せることが、被害の拡大防止につながります。状況に応じて、以下の窓口が活用可能です。
- ハローワーク求人の場合
ハローワーク(公共職業安定所)で紹介された求人の内容が実際と異なっていた場合は、求職者専用のフリーダイヤル「ハローワーク求人ホットライン」へ申し出ます。ハローワークを通じて事実確認や是正指導が行われる場合があります。 - 民間求人サイトの場合
転職サイトや求人情報誌などに掲載された内容と実態が異なる場合は、その媒体(運営会社)のサポート窓口へ通報します。多くの媒体では掲載規定を設けており、虚偽記載に対する掲載停止等の措置をとるケースがあります。 - 法的なトラブルや労働相談全般
各都道府県労働局に設置されている「総合労働相談コーナー」では、募集・採用に関するトラブルを含め、労働問題全般について専門の相談員に面談・電話で相談することができます。
5.信頼できる求人情報を効率的に見つけるには?

求人情報を見抜くチェックリストに加えて、自ら積極的に情報を集めることも重要です。転職エージェントの活用や口コミサイトでの情報収集など、多角的なアプローチで企業の実態を把握しましょう。
転職エージェントを最大限活用する
転職エージェントは、企業から直接得た情報だけでなく、実際にその企業に転職した人の声や、内情に関する詳細な情報を持っています。

求人情報だけでは分からない、現場の雰囲気や人間関係についても質問してみましょう。
口コミサイトやSNSで生の情報を得る
企業の口コミサイトやSNSを活用することで、現役社員や元社員の「生の声」を知ることができます。
ただし、個人の主観が大きく影響するため、鵜呑みにせず、複数の情報を比較検討し、客観的な視点を持つことが重要です。
入社前に確認すべき「重要事項」
内定が出た後でも、入社承諾をする前に以下の3点は必ず確認しましょう。
- 労働条件通知書
給与、労働時間、休日、就業場所などが明記された書類
求人情報との相違がないか、一字一句確認する - 現場見学
可能であれば、入社前に一度現場を見学させてもらい、実際の作業環境や社員の様子を自分の目で確認することが理想 - 面談
実際に配属される予定の部署の先輩社員や、現場の社員と面談する機会を設けてもらい、業務内容や職場の雰囲気について直接話を聞く機会を得る
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入社前の確認と同じくらい重要なのが面接対策です。頻出質問の回答例から経験者・未経験者別の戦略まで、合格に導く実践的ノウハウを詳しく紹介しています。
6.2024年問題で施工管理の働き方はどう変わる?
建設業における働き方改革の4つの柱
⏱ 労働時間削減の徹底
💸 適正な給与と公正な評価
🚀 生産性向上とDX推進
👥 女性・若者・高齢者の活躍
(建設業の働き方改革における主要な課題)
2024年4月1日より、建設業にも時間外労働の上限規制が原則適用され、働き方改革が本格的に進んでいます(災害時の復旧・復興事業は除く)。労働時間の短縮や休日取得の推進が企業の義務となり、業界全体が変革期を迎えています。
建設業界の「働き方改革」最新動向
国土交通省は、労働時間短縮や週休二日制の普及を促進するための様々な施策を進めています。
長時間労働を是正し、労働環境を改善することで、建設業を「働きやすい魅力ある産業」へと変革していくことが目指されています。
参考:国土交通省|建設業における働き方改革(※記事内容は執筆時点の情報に基づきます)
労働時間短縮や休日取得への企業の取り組み
現在、多くの企業が以下の取り組みを始めています。
- 週休二日制の導入
建設現場でも、一部の企業が土日休みの現場を増やしている - ICTの活用
ドローンやIoT、BIM/CIMといった最新技術を導入し、業務効率化を図り、現場の生産性を向上させることで、労働時間短縮を目指している - 社員の健康管理
過度な労働による心身の不調を防ぐため、健康診断の徹底やメンタルヘルスケアの支援を行う企業も増えている
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7.求人の「嘘」に惑わされず、理想のキャリアを実現するために
施工管理の求人情報に「嘘」が多いと言われる背景には、業界特有の事情や慢性的な課題が存在します。
しかし、闇雲に不安を抱えるのではなく、そのギャップがなぜ生まれるのかを正しく理解することが、失敗しない転職の第一歩です。
この記事で紹介したチェックリストや情報収集方法を実践することで、求人情報の本質を見抜き、自分に合った優良企業を見つけることが可能になります。
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